岩国駅へ降り立つとバスやタクシー越しに、屹立する塔のようなモニュメントが目に飛び込んでくる。陽気な熱帯の土地を思わせる樹木が、モニュメントに添ってまっすぐに立ち、わずかな緑地をなして、それはロータリー式の交差点の真ん中にある。
岩国駅を中心にして放射線状に伸びる道路は、横方向に国道188号が、縦方向に前進すれば国道2号に直結する道が取りつけられている。ビルに取り囲まれた緑地の向こう側に中央通りは、岩国駅と国道2号を最短距離で結んでいる。
道路の分離帯には、季節を彩る緑の植え込みがあり、片側にクルマ2台が併走できるだけの充分な幅員が確保され、さらに広い歩道が道の両側に沿って延長される。
界隈にある他の道と比べると、明らかに将来を見込んだ設計がなされ、岩国駅前の動脈となることを願った先達の思惑が垣間見られる。
1970年代になると、駅前に鉄筋コンクリート造りのマンションが登場。市民に現代生活の幕開けを感じさせる時代が到来した。中央通りにも、3階建ての瀟洒なマンションが新築され、おおよそ8年間ゆえあって、そこの窓から通りを眺めて暮らすことになった。
マンションの1階には画廊や美容院、レストランなどが軒を連ねていた。テナントが併設されたマンションは当時、とても珍しく先進的な住まいで、近くの麻里布中学校に通いながら、密かなスノビズムを持って過ごした。なにしろ繁華街のど真ん中だ。
すぐ近くの商店街は活気を帯び、クルマの往来は頻繁で、夜には爆音をあげて走る不埒者の姿さえ見えた。街路樹が立ち並び、当時としては美しい造形の街灯も設置された。
夏になると中央通りでは盆踊りが催され、夜の街を照らす提灯の先には、明るく光る駅舎が窓から見渡せた時代だった。
年月の流れと共に栄枯盛衰はめぐり、今は数々の高層マンションが中央通りを見下ろしている。街の姿も、とりまく環境も、ずいぶん変わってしまったけれど、平成の身なりを整えて、岩国駅前の真ん中で堂々と機能を果たしている。
マンションの1階で営んでいた洋菓子屋では、今もなお、やさしいおばちゃんがケーキを作り続けている。ボクだけは特別に、アマンド洋菓子店のマドレーヌを口にしたとき、四半世紀も昔の中央通りの景色がよみがえり、また密かなスノビズムを思うのである。
(文・ふじたのぶお)
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