だれもが自動車を運転するようになって、暮らしの行動範囲はずいぶん広がった。遠くの場所でも簡単に到達できるし、行った先には大きな駐車場が用意され、その目的を明快に果たすことができる。郊外型と呼ばれる大きな店は、いささかも衰えることなく、次々と新たな看板が幹線道路に沿って掲げられている。
それらは「昼食を摂る」とか「洋服を買う」とか単一の目的を達成するためにはとても便利だけれど、複数の事柄のためには、いちいち再び自動車に乗って移動しなくてはならない。
目的を持たないひとときを楽しむには、複合型の商業施設がある。アルパークや、まもなく広島駅のとなりに開業するソレイユなどは、遠くから訪れても半日をすごすことができるだろう。映画館やブティック、レストラン、銀行や郵便の用も足せられるよう、とても快適な仕掛けが随所に施してあるのだ。交通機関も至便。
何もなかった広場に忽然と現れる大型商業施設は、使い方や楽しみ方のすべてがデザインされたテーマパークのようで、いかにも現代人に向いている。既存の商店街がますます退屈に思えてくるのも、無理からぬことかも知れない。
では、昔ながらの駅前や商店街には、まったく見どころが無いのだろうか。
いや、ある。店々の並びは必ずしも整然としていない。公園があるかと思えば、定食屋がある。角を曲がったら花を売っていて、なんの前触れもなく、たこ焼きの店が開く。いずれも、この街でやってみようとする店主の熱心な思いが馳せられた、ピリ辛の粒だ。決して大柄ではないけれど、小さな感動と秘められた意外性こそ、駅前の醍醐味なのである。
街を楽しむに、マニュアルなんていらないんだよ。
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