駅前の洋服屋であるから、駅前を歩かない日は滅多にない。店が休みの日でも、なにがしかのヤボ用があって商店街を歩くのが普通の暮らしである。
しかし秋が深まり、冬の足音を聞くころになると、クリスマスの店を開けるので、おおよそ二ヶ月の間は暮らしのパターンが一転し、ほとんど出歩くことは無くなる。
日中はクリスマスハウスの主となり、夜間はホームページの運営に費やして深夜に及び、もっぱらインターネットと携帯電話が外界との接点となる。なにしろ自宅だから、開催期間中といったら、まるで外出しないと同じなのだ。こんな一年を繰り返して、もう十五年がたった。
クリスマスハウスがある場所は、駅前からさほど遠くないものの、やはりきわめて閑静であり、街の喧噪とはおおよそ無縁に思える、まったく住宅立地といって良い。
訪れるお客が疎らになる日暮れになってテラスへ立てば、街の方向にビルのネオンが見え、遠くから自動車の警笛が聞こえてくる。
それは、なにか賑々しく、とても楽しげなのだ。いつもなら煩わしく感じる狭隘な道の往来や、世辞にも美しいとは言えない雑踏の看板でさえ、やたらと懐かしいのだ。誰もいない空間で、ゆらゆらと光るクリスマスのイルミネーションに包まれて街の姿を思うと、なぜか、すっかり寂しく思えてしまうことがある。
街が放つエネルギーは、街を離れてみて初めて感じるもののようだ。
栄枯盛衰をたどる駅前の活気は、それでも山手町の一角にこだましている。
明日あたり、ちょっと駅前に飲みに出かけてみるとするか、さて。
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