床屋のイスにかけて、他愛のない会話に相づちを打っているとき、「駅前、ダメじゃねえ」と誰ともなく話題になる。ダメとまで言わずも「最近、駅前どんなん」と聞かれることは少なくない。
だいたい五十年輩よりも上の団塊世代と思しき人が多く、言葉の裏側には、かつての賑わいを知っているから馳せる思い、また元気な駅前であって欲しい意図が潜んでいるように聞こえてならない。彼らはみな、まさに駅前の活気を創ってきた人たちなのだ。
そんな話を聞くと、世代を受け継いだ者として、ちょっとした責任感と、先達に対する憑依を感じる。
商人の長男として生まれ、商店街を遊び場にし、街と共に暮らしてちょうど四十年が経った。中心市街地活性化と題した、駅前の元気を創り出す催しに一役かって出た私は、一介の洋服屋である。
人が行き交い、情報が流れる駅前にありながら、あえて商業立地を離れた住宅地へクリスマスの店を出してみた。岩国の街を出て、東京で暮らしてもみた。そこで得た出会い、そこで学んだ事柄を懐にしまって、また我が駅前に棲む今。中から見た駅前の風景や、外から眺めた街の姿を様々な角度からスナップし、未来への一助と願いつつ、このコラムを連載する。
岩国を愛する地元新聞「防長新聞」なればこそ実現した連載に、まずは感謝。読者のみなさまには、床屋談義の続き程度に、どうかしばしおつき合いいただきたい。
プロフィール
藤田信雄(ふじたのぶお)1963年生まれ。駅前の洋服屋(株)フジタグループ・メンズUの三代目として生まれ、岩国商業高校を卒業後、グラフィックデザインを学ぶため上京。帰省した後、稼業の傍らで商業デザイン、ウェブ企画制作、プロデュース業などを手がける。1988年クリスマスハウスを企画。趣味はクラシックカー、釣り、パソコン、競馬など多彩。
ホームページ http://nob.marifu.com/
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